2014年10月28日火曜日

日米関税協議の新たな「要求」―主食用米と乳製品「ホエイ」


★米国は「主食米」でも日本に輸入拡大を要求

TPP交渉をめぐる日米協議は、オーストラリア・シドニーでの閣僚会合時にも並行して進められた。しかし大きな進展はなく、それどころか新たな要求が米国から突きつけられている。今回はその中身を考える。

まず、シドニーでの日米協議において米国が要求したのは、「主食用米の輸入枠の拡大」である。関税ゼロで輸入できるミニマムアクセス米のうち、主食用に回る売買同時入札方式による輸入の拡大だ。現在、ミニマムアクセス米は年間77万トンだが、同時入札方式によるものは10万トン。そのうち米国からは36000トンの主食米を輸入している(2013)

これに対して米国は、自国の占有率をもっと上げようと、米国産米に限って優先的に輸入できる仕組みを適用することを、日米関税協議で求めていることが今回、わかったのだ。

さすがにここまでの要求を、日本政府も受け入れるわけはなく、現時点では拒否しているという。これまで日米の関税協議は、牛・豚肉の関税やセーフガードなどが問題となってきたが、米国が主食米でも日本に強硬な要求をしていることが改めて明らかとなった。

★乳製品「ホエイ」も焦点に

もう一つ、今回新たに米国による要求として具体的になった産品が、「ホエイ(=乳清、whey)」だ。聞いたことのない方も多いと思うが、ホエイ(乳清)とは乳製品の一種で、生乳からチーズをつくる際にできる液体の副産物。乾燥させてパウダーにしたものは、お菓子や乳飲料、パンの原料などに使われ、脱脂粉乳の代わりになることもある。高タンパク・低脂肪で栄養価が高いので、最近では「ホエイ・プロテイン」というような形で売られていることも多い。実は私たちの食生活におなじみの食品だ。

このホエイについて、1010日~15日まで行われていた日米実務者協議などで米国は日本に、関税撤廃など大幅な輸入自由化を求めているのだ。ホエーは脱脂粉乳の代替品としても使われ、輸入が拡大すれば国内の乳製品の需給に悪影響を与える恐れがあるため、主食米同様に、日本側は拒否している。

ホエイが安く輸入されれば、国産生乳の需給調整弁である脱脂粉乳と置き換わる恐れがある。そのため日本は、国家貿易や使用目的を限定した低関税輸入枠でホエーの輸入を管理。過去の経済連携協定(EPA)でも、脱脂粉乳やバターなど他の乳製品と同様、関税撤廃・削減からの「除外」以外の対応をしたことがない重要品目なのだ。

一方、米国では近年チーズの生産・輸出が好調で、日本市場でも急拡大している。大きくいって米国産チーズの輸入量は、10年前の7倍にまで増えている。伴って、米国のチーズの副産物であるホエイも輸出が堅調。日本は米国のホエイ輸出先として上位にある。米国はTPPを通じて、さらに日本での乳製品のシェア拡大を狙っていて、今回のような要求をしていきたとみられる。

★国内への影響

もし米国の要求に応じてしまえば、国内の生乳産業への影響は深刻だ。牛乳中、チーズとなるのは1割で、残りの9割はホエイとなる。つまりホエイは酪農家の重要な収入源の一つなのだ。もし海外からホエイが安く入ってくれば価格も下がり、その結果国産は売れなくなってしまう恐れがある。北海道の生乳の生産量は全国の5割以上を占め、実際には本州よりも価格は安い。しかし北海道の牛乳をそのまま全国に販売すると、本州の酪農家が太刀打ちできないため、北海道の生乳はチーズなどの乳製品向けに使用し、本州に出荷する牛乳を減らすという暗黙のルールがあるという。TPPによって酪農経営が厳しくなれば、北海道の酪農家は本州にも牛乳を売り込むことが予想される。そうすれば本州の酪農家にも打撃を与える恐れも十分にある。

米国は明らかに、次々と日本に要求を出すことで揺さぶりをかけてきている。その結果として、より多くの利益を得ることを想定しているのだろう。一つ一つの産品が私たちの食や日本の農業にとって重要であり、そして「ホエイ」のように今までよく知らなかった、というものも含まれる。TPPを考えることは、私たちの暮らしのあり方そのものに向き合い、考えることに他ならない。



2014年10月26日日曜日

自民党議連「TPP交渉における国益を守り抜く会」の新会長・江藤拓氏について

自民党内には、いわゆるTPP慎重派議連「TPP交渉における国益を守り抜く会」というものがある。メンバーのほとんどが、先の選挙で「TPP参加断固反対」などといって当選した議員である。当時は「TPP参加の即時撤回を求める会」という名称だったが、2013年3月15日の参加表明以降は、名前を現在の「国益を守り抜く会」に変えた。要するに、「参加」してしまった以上、それを前提として「国益を守り抜く」というスタンスに変わったということだ。いうまでもなく、これは有権者に対しては公約違反だ。

この会の動きや評価、「本当にこれら自民党議員は、最後までTPPに反対するのか?」などをめぐっては、書きたいことは山のようにある。が、今回は、自民党のTPP対策委員長となった森山裕会長に代わって、同会の会長となった江藤拓氏についてのみ書く。

日本農業新聞 2014年10月13日
江藤氏は、宮崎選出の議員で、これまでも自民党農林部会会長や、農水副大臣などを務めているが、TPPに関しては断固反対の姿勢を取り続けてきた。「国益を守る会」会長に就任するにあたって、日本農業新聞のインタビューの中で、改めて国益=衆参両院の農林水産委員会の決議、すなわち農産品の重要品目の聖域確保の決議を守るということを名言している。繰り返すが、かつての「交渉参加反対」が、いつしか「国益を守る」という論点にすり替えられてしまったことは重大な問題である。この点について、いったいどのように考えているのか、有権者に対しどのように説明するのか、私は交渉参加以来、何人かの自民党議員に尋ねてきたが、多くの議員の口は重い。明らかにされなければいけないポイントは、やはり2012年末の総選挙時から、2013年2月の安倍首相・オバマ大統領の会談、そして3月15日のTPP交渉参加宣言までの数か月の間に、誰がどのように動き、自民党内で何が「合意」されたのか、ということだと今でも考えている。

今改めてそのことを考えた理由は、江藤氏の「国益を守り抜く会」会長就任という報せを聞いたからだ。

実は江藤氏が会長就任という話題を聞いて、大変気になる新聞記事をすぐさま思い出した。2013年3月15日の産経新聞「首相ひそかに党内調整」というものだ。この日付は、まさに日本のTPP参加を安倍首相が表明した日。その舞台裏を記事は紹介している。記事には「自民党内の農水族ら慎重議員への説得工作には、2人のキーマンがいた」とある。その一人が江藤氏だ。首相の「密命」で江藤氏は農水族やJAへの根回りをしたというのだ。ちなみにもう一人のキーマンとは、改造人事で農水大臣に就任した西川公也氏と書かれている。

もしこのことが真実であれば、「国益を守り抜く会」は明らかにヤラセそのものだ。仮に日本が聖域を守れないまま交渉が妥結した際に、「我々は日本の農業を守るために最後まで必死にがんばった」と言い訳をするための道具でしかない。報道の真偽は確認できないが、いずれにしても自民党内の「慎重派」議員に対しては、公約を守れ、決議を守れ、という声を高めていかなければならない。

※以下に、本文で紹介した産経新聞記事の全文を引用する。リンクはすでに切れていて読むことはできなくなっています。

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★産経新聞 2013年3月15日★

首相ひそかに党内調整

TPP交渉参加きょう表明
安倍首相は15日、TPPの交渉参加に踏み出す。決断が可能となった背景には、自民党内の農水族ら慎重派議員への説得工作が奏功したことがあるが、そこには首相の柔軟な戦術と2人のキーマンの存在があった。

■キーマン2人
「慎重派や全国農業協同組合中央会(JA全中)に根回しをしたのは、筋金入りの農水族議員だ」。政府高官のいう議員とは江藤拓農水副大臣。
副大臣になる前は党の「TPP参加の即時撤回を求める会」の幹事長代理だった。訪米から帰国した翌日の2月25日、首相は報道陣に悟られないよう、裏口から江藤氏を官邸に招きいれた。

「もう新たな局面に入ったんだ」。首相の一言で江藤氏は趣旨を察した。日米首脳会談で関税撤廃の例外を確認したのだから、例外品目を交渉で勝ち取る条件闘争に局面は移ったー。
江藤氏は農水族やJAへの根回しという「密命」を受け入れた。

さらに首相は、江藤氏に時間をかけた説得工作を指示した。それは首相の戦術変更も意味していた。実は、訪米にあたり首相は交渉参加表明のタイミングを「帰国直後」「2月28日の施政方針演説」の2通りと想定していた。説得に時間をかけない正面突破の戦術といえる。

だが、米側から議会への説明などに時間が必要なため「発表を待ってほしい」と要請されたことで方針を転換。待っている間に党内の反対論が勢いづく事態を避けるため、丁寧に説得にあたることにしたのだ。

■日程狙い撃ち
もう1人のキーマンは、党TPP対策委員長に起用した西川公也衆院議員だ。小泉純一郎政権下で郵政民営化担当の内閣府副大臣を務め、当時官房長官だった首相とも近い。対策委では慎重論の矢面に立ち、「政府も一丸で交渉にあたる。攻めて攻めて攻めまくる」と防波堤役を果たした。

さらに、3月15日の参加表明という日程も、首相が狙いすましたものだ。12日には農林漁業など8団体の反対集会、17日は自民党大会が予定されており、その間しかないと見定めた上での表明となる。

2014年10月25日土曜日

朝日新聞社説「TPPは消費者にメリット」に対する日米の消費者団体からの反論


10/23の朝日新聞「私の視点」に「TPP 消費者への深刻な脅威だ」と題し米国のラルフ・ネーダー氏(パブリックシチズン創設者)と田坂興亜氏の連名でコラムが掲載された。 (下記リンク参照。ログイン必要。無料)。ぜひお読みいただきたい。

朝日新聞 「私の視点」2014年10月23日
実はこのコラムには背景がある。去る9月8日、同紙社説は「TPPは消費者にメリットをもたらす」と交渉の必要性を論じた。これを見て私たち日本のNGOや消費者団体は驚き、怒った。朝日社説「TPPは消費者にメリット」は、英文配信もされたため、米国の消費者団体パブリックシチズンをはじめ、市民団体は猛反発。私も定例で参加している国際NGOの電話会議では、米国NGO達から「朝日はいったい何を考えてあんな社説を載せたんだ?」と尋ねられた。

TPPをめぐり「農業悪玉論」「日本は貿易立国」等のトンデモ論も多いが社説で堂々と「消費者にメリット」と論じるのは相当ヤバい。つまり朝日は「安ければいい」という論理、つまり賃金や労働条件を含めた低価格競争を肯定し、食の安全や残留農薬への懸念も無視し「消費者にメリット」と論じたのだ。

私たち国際NGOは朝日社説に反論するコラムを掲載できないかと模索してきた。日本消費者連盟はじめ両国NGOの努力で実現したのが10/23の「TPP 消費者への深刻な脅威だ」(ラルフ・ネーダー氏、田坂興亜氏)だ。 こうした掲載の経緯を含めぜひ知っていただきたい。

★朝日新聞 「私の視点 TPP 消費者への深刻な脅威だ」(2014年10月23日)

★参考: 朝日新聞社説 「経済連携交渉 「負の連鎖」防ぐには」(2014年9月7日)